られる金襴地《きんらんじ》の小袋でしたから、発見するや、鋭い声がとんでいきました。
「そりゃなんだッ。おまえがたには分にすぎた腰ぎんちゃくじゃが、どれ見せろッ」
見とがめられて、ぎょッとしたように必死と両手で押えつけましたものでしたから、いかでわれらの捕物名人が許すべき!――。
「ちっと痛いが、こらえろよ」
いいつつ、草香流でもぎとってよくよく見ると、こはなんたる奇怪ぞ! プンと鼻を打ったは、線香――、お寺さんで用いる上等の線香のにおいです。
「ほほう、これはどうやらすばらしくおめでたいことになってきたぞ」
およそここちよげな微笑をもらしもらし、守りぎんちゃくの中を改めていましたが、と――はしなくも現われてきた一通は、次のごとくに書かれた紙片でした。
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「そなたのうれしきあの夜の心尽くし、生々世々忘れまじく候《そうろう》。されど、今は親しくお目にもかかれぬ身、お礼のかわりにこの守り袋お届け候まま、わが身と思うて、たいせつにご所持なさるべく、はよう年季勤めあげて、ご立身なさるよう、陰ながら祈りあげ候。次郎松どの――」
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読みおろすと同時でした。じつに意外ともなんとも言いようのないことを、ずばりと名人がいいました。
「人形大尽! 十七、八の島田がつらを一つ用意しておきなせえよ」
「えッ※[#感嘆符疑問符、1−8−78] まだなにかそんなものを用意して、娘の供養をせねばならぬのでござりまするか」
「さようじゃ。ちっとこんどの供養は大金がかかるが、だいじないか」
「金ゆえに失った娘でござりますもの、それで供養ができますならば、いかほどかかりましょうとも惜しくはござりませぬ」
「でも、この近江屋の身上がみんなじゃぞ」
「みんなじゃろうと、どれだけじゃろうと、喜んでさし上げまするでござります」
「すこぶるよろしい! では、あすの朝にでも河岸《かし》へ行って、江戸一番の大鯛《おおたい》をととのえてな、それから灘《なだ》の生一本を二、三十|樽《たる》ほどあつらえておきなよ。そうそう、特にこのことは忘れてはならぬが、これなる次郎松少年は、じゅうぶん目もかけ、いたわってもつかわせよ。こういう賢い奉公人というものは、そういくたりもあるものではないからな」
「なんじゃやらいっこうに解せませぬが、しろとおっしゃれば、どのようにでもいたしま
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