らをあげすぎるために、内々そねまれているおれの名まえなんぞ、ご番所のだれがかたるもんかい。さっきの手裏剣少年じゃねえが、少し逆上しているようだから、冷やっこいところを二、三杯見舞ってやろうか」
「いいえ、けっこうです、けっこうです。そんなもなあお見舞いいただくには及びませんが、でも、なんだってまあ、あのひょっとこおやじの百面相が、命とかけがえに片棒かつぐ気になったんでしょうね」
「そこがいわくいいがたしだが、いずれは娘のたいせつなものでもちょうだいができる約束でもあったろうよ。だから、梅丸もそこは人気|稼業《かぎょう》で、若い男ででもあらば格別、相手の五十男であったことが恥ずかしくて、なかなか口を割ろうとしなかったろうさ」
 それにしても、女は魔物だな、といわぬばかりに、ややしばしことばをとぎっていましたが、やがてつぶやくようにいったことでした。
「――考えてみりゃ、きょうはお釈迦《しゃか》さまのお生まれなさった日のはずだったが、それだのにあんな罪劫《ざいごう》の深いやつらがいるところを見ると、まだご功徳がお足りなさらねえのかな」



底本:「右門捕物帖(二)」春陽文庫、春陽堂書店

前へ 次へ
全45ページ中44ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
佐々木 味津三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング