町役人をかえりみるといいました。
「ちょうどいいつごうだ。ここのとが人どもをふたり、ついでに伝馬町まで送ってくんな」
言いおくと、すっぽり紫ずきんをいただきながら、さっさと足を早めました。
しかし、道を歩きながらしきりと首をひねりつづけたのは伝六です。あちらへこちらへと、道を踏み違えるほどひねりつづけましたものでしたから、名人が笑いわらいいいました。
「兄分らしくもねえ、あんまりどじなかっこうすると、こちらのちっちゃなお公卿《くげ》さまに笑われるぜ。なにがいったい考えに落ちねえのかい」
「だって、よくまあだんなにゃ、しょっぱなから化け右門があの一座にいるとおわかりでござんしたね。あっしゃまた、あばたの敬公かだれかご番所の者が名をかたりやがったと思ってたんですよ」
「どじだな。そんなことぐれえ、初めっから眼のつかねえようでどうするかい。大きな声じゃいわれねえが、他人の名まえの手がらまでも横取りしたい連中はうようよいても、自分のあげたてがらにひとの名まえを貸してやるような、ご了見の広い者は、半分だってもご番所になんぞいねえじゃねえか。それも、ほかの者の名まえならだが、このごろちっとてが
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