然、その内前すそが五寸四方ほど食いちぎられていることが発見されましたので、なんじょう名人の目のさえないでいらるべき――いとも皮肉にからんだ真綿責めのことばが、じっくりと飛んでいきました。
「舞台じゃはかまをはいていたので、このすその傷に気がつかなかったが、顔に似合わねえとんだ放れわざをやんなすったものだね。今、こっちの正体も拝ましてやるから、とっくりごらんなせえよ」
いうや、ぱらり紫ずきんをはねのけて、秀麗かぎりない美貌《びぼう》に莞爾《かんじ》とした笑《え》みを見せていたようでしたが、ずばりといったそのことばは、なんともはや、右門党にとっては胸のすくことでした。
「ほんもののむっつり右門は、こんな顔をしているんだ。さ、気つけ薬になるか、虫干しになるか、よっくごらんなせえよ」
ぎょッとなったのはむろんのことに梅丸ですが、しかるに、こやつがあでやかさにも似合わず、どうも強情でした。肉襦袢一枚の五体をわなわなと震わしたきりで、さらに口を割ろうとしなかったものでしたから、伝六があけっぱなしに始めました。
「じれってえだんなじゃござんせんか。どういうホシをつけなすったかしらねえが、割らなき
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