がぽかんと妖花の芸に見とれているのをそこにほっておきながら、やにわにすいと立ち上がると、ずかずかと舞台の上にやっていって、爛々《らんらん》烱々《けいけい》と目を光らしながら、今、梅丸竹丸両名が竹棒の上にのぼるまえ、そこの板の上に残しておいた石灰の粉末のたび跡の大きさを、じいっと見調べました。
 ところが、どうもこれがじつに意外中の意外なので、右門の足は九文七分であったのをさいわい、それを標準のものさしにして両名の白い粉の足跡を計ってみると、偶然なことに、梅丸竹丸いずれもが同じように九文三分くらいの大きさでしたから、こりゃいけねえ、というように、すっかりあてのはずれた面持ちでした。また、これは、いかな名人であっても、ことごとくあぐねきってしまうのが当然なので、少なくも事件の重大なかぎとなるべき、あの女親方のへやにうっすらと乱れ散っていた大きなほうの粉足跡は、梅丸竹丸両名のうちのどちらかが残したものであろうとにらみがついたればこそ、こうやって見たくもない竹棒渡りまでも演ぜしめたのに、しかるをいま両名の足跡を検分したところによれば、なんとも腹のたつ偶然なことには、両々等しく九文三分ぐらいの大
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