無理して頼むのじゃがな。べつに役人風を吹かすわけではないが、このとおり奉行所《ぶぎょうしょ》の者が事を割っての頼みじゃから、両人の者にもその旨を申し聞けて、ひとつ目の保養をさせてはくれまいかな」
「よろしゅうござります。そう事を割ってのおことばならば、いかにもてまえが申し聞かせましょう」
楽屋のほうへ行き去って、娘どもにその旨を伝えていたようでしたが、番頭としての職がらがものをいったものか、それとも奉行所の者が事を割って頼んだ目の保養という右門流の巧みな誘い出しがきいたものか、すぐさまにしたく万端の用意に取りかかった様子でしたから、名人はなにごとか深い計画ででもあるかのごとく、うそうそと覆面のうちに微笑しながら、舞台わきのうずら席の一隅《いちぐう》に、どっかと陣取りました。
と見て、もちろんお株を始めたのはいつものとおり伝六で、だが、相手は右門でなく善光寺辰でした。
「な、辰ッ、さっきだんながいっしょに苦労を分けろとおっしゃったから、兄がいに半分おめえにも分けてやるが、こういうのがだんなのおはこなんで、これまで、どのくれえおらあこの手で苦労させられているかわからねえんだから、うっか
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