たことか、それがやっぱりあいきょう者なので、しかもほかになんびとか連れでもがあるらしく、やにわに奇態なことを促しました。
「さ! 遠慮はいらねえから、早いところおめえの隠し芸をお目にかけて、ちょっくらだんなの肝を冷やしてやんねえよ」
 と――ほとんど同時です。伝六に促されて黒い影がごそごそと庭先へはいってきたらしい様子でしたが、いかにも奇怪至極なことばで、とつぜん右門に呼びかけました。
「だんな、お無精をなさっていらっしゃるとみえまして、おさかやきが少しお伸びのようでござんすね」
 これにはさすがの捕物名人もおもわずぎょッとなりましたので。表にこそはいくらか宵星のうっすらとしたほのあかりがありましたが、屋のうちはあんどん一つともっていないまっくらがりでしたのに、それなる不意の闖入者《ちんにゅうしゃ》ばかりは、夜物が見えるふくろうの目玉でも備えつけているのか、鼻先をつままれてもわからないようなやみの中に寝ころがっている右門のさかやきが少々伸びているのを、さながら白昼のもとに見るかのごとくぴたりと言い当てましたものでしたから、したたかに肝を冷やして、むくり起き上がりざま、握るともなく蝋色鞘
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