上に見ながめていましたが、そのみずみずしくも秀麗な美丈夫ぶりに、それとうなずかれたものでありましょう。くちびるまでも青ざめながら、観念したかのごとくにいいました。
「こうしてたき火にあたためさせてくださったご慈悲深さといい、いずれただのおかたではあるまいと存じていましたが、右門のだんなさまだったら、しょせん何もかももうお見のがしはなさりますまいゆえ、ありていに申し上げますでござりましょう」
「さようか、神妙ないたりじゃ。手ごめに会っていたとすると、あの屋敷がそもそも不審じゃが、いったい何者の住まいじゃ」
「あれこそは何を隠しましょう。絵師|眠白《みんぱく》の屋敷でござります」
「なに、眠白とな。眠白といえば、当時この江戸でも一、二といわれる仏画師のはずじゃが、それにしても一介の絵かきふぜいには分にすぎたあの屋敷構えはどうしたことじゃ」
「名代の強欲者でございますゆえ、高い画料をむさぼって、ためあげたものにござります」
「聞いただけでも人の風上に置けなさそうなやつじゃな。して、そなたは、眠白の何に当たる者じゃ。そのあだめいた姿から察するに、たぶん娘やきょうだいではあるまいが、囲われ者でで
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