行より端を発して、さらに怪奇な発展をとげることになりましたが、見ると妖女は夢からさめて正気に返ったためか、水びたしになった五体を寒そうにぶるぶると震わしていたものでしたから、明知のさえとともに、いかなるときも慈悲の心を忘れぬ右門は、さっそく伝六に命じてたき火をこしらえ、女をいたわるようにあたらせてやると、例の烱々《けいけい》とした眼光を鋭く放って、いかなる秘密もなぞもおれにかかってはかなわないぞというように、じっとその身辺を見調べました。と――はしなくも名人の目に強く映ったものは、火にかざした女の両腕首に見える紫色のなまなまとしたあざのあとです。ついぞ今までなわにでもくくられていたために残ったあざあとのようでしたから、いかで名人の目の光らないでいらるべき――鋭くさえた声が飛んでいきました。
「そなた今まで手ごめに会っていたなッ」
「えッ!」
「おどろかいでもいい。そなたもうわさになりと聞いたであろうが、八丁堀のむっつり右門というはわしのことじゃ。白を黒といっても、この目が許さんぞ!」
 鋭くいわれて、女はこわごわ面を上げながら、燃えさかってきたたき火のあかりで、しげしげ右門の姿を下から
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