わててすそを直して、不意にいいました。
「ま! では、あの、またあたしは、だいそれたまねをしたんでござんしょうか! 指を切りに出かけたんでござんしょうか!」
 いうと、恐ろしいものをでも見るかのように、自身の身のまわりをうち調べていましたが、ぐっしょり着物の水びたしになっているのを発見すると、
「どうしましょう! どうしましょう! また知らずに夢にうなされて恐ろしいまねをしたとみえます。どうしたらいいでござんしょう! どうやったら、この病が直るんでござんしょう!」
 ぞっとおぞ毛[#「おぞ毛」はママ]を立てながら、おのが身ののろわれた病を嘆き悲しむかのようにつぶやいたものでしたから、伝六はいうまでもないこと、右門も事の意外から意外へ急転直下したのに、したたかおどろいていましたが、しかし、さすが捕物|侠者《きょうしゃ》です。妖女がはしなくもつぶやいた夢にうなされてといった一語を耳にすると、いっさいのなぞがわかったかのごとく、伝六を顧みていいました。
「どうやら、この女、夢癆《むろう》にかかっているらしいよ」
「え? ムロウってなんですかい。かっぱの親類ででもあるんですかい」
「とんきょう
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