てしまいなされました。なれども、首尾よく主家横領はいたしましたものの、すねに傷もつだけに江戸錦様のいられることは目の上のこぶでござりましたゆえ、これをもついでにあやめようと思いたたれてごくふうなさりましたのが、今日ご不審のもととなった秀の浦とのあの一番でござりました。それというのも、わたしとあの秀の浦とが幼なじみの間がらゆえ、わたしに事情を打ちあけなされまして、秀の浦にあの封じ手を使わするようそそのかしたのでござります。むろんのことに、かようなまわりくどい手段を講じました子細は、土俵の上での殺傷ならば、うまうま犯跡をくらましえられますものと思いましたからでござりまするが、それはそれでよいといたしまして、ご不審が一つおありでござりましょう。と申しますのは、そういうわたしが、なぜにまたそのような悪人の大島弥三郎様から、おぞましい悪事の荷担相談をうけるにいたりましたか、それがご不審でござりましょうと存じまするが、お笑いくださりますな。恋は思案のほかとたとえのとおり、その悪人の弥三郎様を悪人と知りながら、わたしは恋しているのでござります。さればこそ、悪事を悪事と知って、つい罪の深間にはいりまし
前へ 次へ
全55ページ中43ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
佐々木 味津三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング