のでしたから、当然のごとくに口をとがらしました者は伝六でした。
「ちぇッ、ぬか喜びさせるにもほどがあるじゃごわせんかッ。ここはだんなのうちですぜ。さっき駕籠とおっしゃったときゃ、例のとおりと特にお断わりなさいましたから、てっきり秀の浦の野郎の行き先に眼がついてのことだろうと思ってましたが、珍しくもない、ここはだんなのねぐらじゃござんせんか。それとも、どこかその辺の押し入れの中にでも、秀の浦の野郎がころがっているというんですかい!」
しきりとずけずけ例のお株を始めましたが、しかし右門はまったくもうさじを投げきったといいたげな顔で、草双紙のにしき絵に見入っていたものでしたから、かんしゃく持ちの伝六ががらにもなく偉い啖呵《たんか》をきってしまいました。
「じゃ、もうかってになさるがいいや。うすみっともねえ。むっつり右門のだんなともあろうおかたが、このぐれえなネタ切れで、さじを投げるってことがありますかッ。だんなはそれでいいかもしれませんが、あっしにゃ因縁づきの相手だからね。あばたのだんななんかに、みすみすとしっぽを巻いてたまりますかい。あとで後悔しなさんな!」
自分ひとりでてがらにでもし
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