ときようやくきたるとばかりに、烱々《けいけい》と眼を鋭く光らしていたものは、余人ならぬわれらの大立て者むっつり右門でありました。この珍中の珍とすべき世にもたぐいのない珍奇な相撲をながめて、早くもわれわれの捕物名人は、なにごとか常人に異なるところを発見したらしく、将軍家ご一統がふきげんな面持ちで、揚げ幕の向こうにお姿を消すまでそこに両手をつきながらお見送りしていましたが、伊豆守様を最後に上《うわ》つ方《かた》のご一統、いずれも引き揚げてしまったのを知ると、ふりかえりざまに鋭く伝六へいいました。
「さ! 伝六ッ、どうやらまた忙しくなったようだぞ」
「えッ、どこかに忍術使いでもいるんですか」
「あいかわらずのひょうきん者だな。今の相撲を見なかったのか!」
「見たからこそ、いってるんじゃござんせんか。あんなおかしな相撲ってものは、へその緒切ってはじめてなんだからね。西方の棧敷《さじき》に忍術使いでもいやがって、あんなまねをさせたんじゃねえかと思うんですよ」
 珍相撲の原因を忍術使いにもっていったところが、いかにも伝六らしい解釈でしたので、右門はあいも変わらぬあいきょう者のひょうきんな答弁に、こ
前へ 次へ
全55ページ中14ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
佐々木 味津三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング