これも印伝鼻緒で、金めらしい二枚裏だからな。おそらく、このはき主ゃ、道楽仲間の悪旗本連だよ。そのうえに、土のちっともつかねえ真新しいわらじが、はくのを待つばっかりでこちらむきにそろえてあるとすりゃ、野郎が逐電の覚悟をつくりゃがって、大急ぎに道楽仲間を呼び寄せたとしきゃ読めねえじゃねえか」
「いかさまね。じゃ、ここで待ち伏せしててやりましょうか」
「ああ。しだいによると、野郎たちダンビラ抜くかもしれんから、十手の用意をしておくがいいぜ」
うまいぐあいに寒竹笹《かんちくささ》の浅い繁みが玄関わきの左手にあったものでしたから、伝六は十手、右門はゆうぜんとふところ手をしたままで姿をかくしながら、様子やいかにと耳をそばだてていると、果然どやどやとあわただしい足音をさせて一刻をも争い顔にそこへ姿をみせた者は、右門のにらんだとおり、ひと目にそれと察しられる三人の旗本と、それから旅装束の一人でありました。念を押してみるまでもなく、旅装束のその小がらのやつが、目ざした不逞漢弥三郎とわかりましたものでしたから、右門はのっそりと両手を懐中にしたままで姿を見せると、満面に莞爾《かんじ》とした笑《え》みをのせながら、黙ってぬうッとその面前に立ちふさがりました。
ぎょッとなったのは、むろんのことに四人の者で、それも立ちふさがった相手が不敵なことに、両手を懐中にしたままでにこやかにうち笑ってさえいたものでしたから、ややしばしぼうぜんと気をのまれたもののようでしたが、ようやくそれと気がついたのでありましょう――、
「さては、きさまが右門じゃなッ。まんまと鼻をあかしてやろうと存じていたが、もうこうなりゃあ水のあわじゃ。それッ、おのおの、ぬかりたもうなッ」
いうや、三人の旗本がいっせいにけしきばむと、期したるごとくにその強刀へ手をかけて、必死に弥三郎をうしろにかばいました。とみるや、右門は期したることではありましたが、できうべくんばけがもさせず、事も荒だてずにとり押えたいと思いましたので、いたってしずかに威嚇いたしました。
「抜くはよろしいが、ちとおん身たちでは手にあまる相手でござるぞ。それでも刃向かいだていたされるか」
しかるに、向こう見ずなやつがあればあるものでした。
「ほざくなッ。義によってせっかく逐電させようと思いたったわれわれ三人じゃ。きさまこそ、たかが不浄役人の分際で、直参旗本を見
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