いかけました。
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けれども、そこまでははっきりと足跡が取れましたが、そこから先が少々ふつごうなことになってしまいました。というのは、ご門番が教えたような身分不相応の駕籠を打たせていったというその距離は、ほんのそこから二、三町ばかりのことだけで、佐内坂への曲がりつじまでさしかかると、そこにもう一丁からの別な町駕籠が待ち構えていて、ほとんどむりやりのように秀の浦をそのほうへ移し乗せながら、四人の替え肩づきでいっさんに駆けだしていったということが判明したからです。それも、駆け去っていった方向がだいたいながらもわかればまだいいのですが、あいにくと時刻はしゃくなたそがれどきで、あまつさえ乗せ移していったというその駕籠が、前の上駕籠とは品の違った、いっこう目じるしも特徴もない町駕籠でしたため、残念なことにはだれにきいてもその先がわからなくなってしまったものでしたから、とうとう伝六が音を上げてしまいました。
「ちぇッ、おかしなまねをしやあがるじゃござんせんか。どこへ消えちまったんでござんしょうね」
しきりと首をひねっていましたが、しかし右門はいたっておちつきはらったものでした。せっかく追いかけてきた肝心の秀の浦が行き先不明になったとしたら、当然の順序として、大手攻めの吟味方針は、ここに一|頓挫《とんざ》をきたさなければならないはずでしたのに、ごく物静かにいったものです。
「では、伝六、いつもの駕籠にしようかな」
「えッ、いつもというと、あの例のいつもの駕籠ですかい!」
「そうだよ。おまえと差しで、仲よくいこうじゃねえか」
「ちぇッ、ありがてえッ。おらにゃあのもぐら野郎がどこへ消えたかわからねえが、だんなにゃ先の先までもう見通しがついているとみえらあ。――ざまアみろい! あばたの野郎! 口まねするんじゃねえが、うちのだんなはちょっとできが違うぞッ!」
しかし、ひとりで伝六が強がって、さっそく駕籠を連れてきたまでは無事でしたが、右門があごをなでなでゆったりとそれへ乗ると同時に、がぜんそこから例の右門流が小出しにされだしました。
「行き先は八丁堀じゃ。それもゆっくりでよいぞ」
のみならず、八丁堀のそのお組屋敷へ駕籠を乗りつけると、意外や事件にさじを投げてしまったといったような面持ちで、ぬくぬくと置きごたつの中にはいりながら、草双紙かなんかをべらべらとやりだしたも
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