守っていたそれなる鳶頭金助が、右門のつねに忘れぬいたわりと慈悲の心に、さしも強情の手綱がとけて、ころりと参ったものか、走りだそうとした伝六を呼びとめていいました。
「ちょっと、ちょっとお待ちなせえまし。こればっかりは口が裂けても申しますまいと思ってましたが、慈悲の真綿責めに出会っちゃかなわねえ。おわけえに似合わず、そちらのだんなは、あっぱれ見上げた男っぷりだ。あっしも江戸っ子|冥利《みょうり》に、すっぱりかぶとをぬぎましょうよ」
うって変わって自白するといいだしたものでしたから、右門の喜びはいうまでもないことでした。
「そうか、それでこそそのほうも男の中の男|伊達《だて》じゃ。きいてつかわそう、どんな子細じゃ」
「ちっとこみ入った話でごぜえますから、よっくお聞きくだせえましよ。実は、生島屋のおおだんなに八郎兵衛《はちろべえ》っていうおにいさんがもうひとりごぜえましてね、そのかたが兄でありながら、あんまりおかわいそうなご沈落をしていなさるので、見るに見かねて、あっしがちっとばかり侠気《おとこぎ》を出したんでごぜえますよ」
「なるほど、さようか。ともかくも、人のかしらといわれるほどのその
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