はただのできあいじゃねえや、知恵の出どころがちっと違わあ。――さ、伝六、また少し忙しくなったぜ」
 のみならず、ゆうゆうとして蝋色鞘《ろいろざや》を腰にすると、ぱんぱんひざがしらをはたきながら、おちついて帰りじたくを始めましたものでしたから、どこにどう犯人のめぼしがついたものか、まるでまだ五里霧中の七郎兵衛があわをくって尋ねました。
「では、あの、雪舟の行くえはもうおわかりになったのでござりまするか」
「わかったからこそ、こうして帰りじたくをしているんじゃねえか。ねこごたつにでもはいって、金の勘定でもしていなよ」
 言い捨てるや、迫らずに表へ出ていったようでしたが、ふと伝六をかえりみると、述懐するようにいいました。
「思うに、あのおやじ、少し握り屋らしいな」
 伝六にはその突然な述懐がよくわからなかったとみえて、ぼけぼけしながら、いぶかしそうにきき返しました。
「とおっしゃると、だんなは、あのおやじの握り屋らしいところに、なんかこの事件《あな》の糸口があるっておっしゃるんですかい」
「あたりめえよ。ひと口にいや、小欲が深すぎるんだよ。だから、あの軸物をもらったんで、もらうものならなんで
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