ちの、まっかになって恥じ入ったことはむろんのことで、穴あらば穴にでもはいりたいといいたげに、ふたりともえり首までももみじを散らして、じっとそこにちぢこまったままでした。
 かくするところへ、伝六がふうふう息を切りながら、鳶頭金助と兄の八郎兵衛を伴って駆け帰ったものでしたから、右門は莞爾《かんじ》とばかりうち笑《え》むと、すぐに金助へいったことでした。
「さすがは年の功じゃ。陽吉夫婦は、そちのにらんだとおりじゃぞ」
「えッ、じゃ、やっぱりご亭主が嫁さんで、お嫁さんがご亭主だったんですかい」
「そのとおりじゃ」
「いくら欲の皮がつっ張っていたからのことにしたって、あきれたものだね。この先、もし赤ん坊が生まれるようなことになったら、どうするつもりだったんでしょうね。男で通っていたご亭主の陽吉さんが岩田帯をするなんてことになったら、天下の一大事ですぜ」
 金助のこのうえもない急所をついた痛いことばに、男と女と入れ替わっていた若夫婦たちは、さらに首筋までもまっかにしながら、消えてでもなくなりたいといったような様子でしたが、それよりも急ぐことは事件のあとのさばきでしたから、右門はやおらことばを改めると、おごそかに申し渡しました。
「七郎兵衛の罪は良俗を乱し、美風を損じたる点において軽からざるものがあるが、右門特別の慈悲により、お公儀への上申は差し控えてつかわすによって、ありがたく心得ろ。そのかわり、生島屋の身代六万両はこんにちかぎり二分いたし、その一半はこれなるお兄人八郎兵衛どのにつかわせよ。どうじゃ、よいか」
「えッ。では、三万両もの大金をただくれてやるんでござりまするか」
 握り屋の握り屋らしい面目を遺憾なく発揮いたしまして、七郎兵衛が不服そうに申し立てたものでしたから、右門のいつにない初雷がその頭上に落下いたしました。
「控えろッ、控えろッ。ただくれてやるとはなにごとじゃッ。そのほうこそ、ただもらっているではないかッ。それとも、六万両みんな八郎兵衛どのにつかわすようお公儀に上申してもさしつかえないかッ」
「め、めっそうもございませぬ。では、三万両さしあげるでござります。さしあげますでござります」
 六万両みなつかわそうかといったことばに、ことごとく震え上がりながら、手もなくそこにひれふしましたので、右門は微笑をふくみながら、いとここちよげに立ち上がると、だが、かえりしなに
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