はただのできあいじゃねえや、知恵の出どころがちっと違わあ。――さ、伝六、また少し忙しくなったぜ」
のみならず、ゆうゆうとして蝋色鞘《ろいろざや》を腰にすると、ぱんぱんひざがしらをはたきながら、おちついて帰りじたくを始めましたものでしたから、どこにどう犯人のめぼしがついたものか、まるでまだ五里霧中の七郎兵衛があわをくって尋ねました。
「では、あの、雪舟の行くえはもうおわかりになったのでござりまするか」
「わかったからこそ、こうして帰りじたくをしているんじゃねえか。ねこごたつにでもはいって、金の勘定でもしていなよ」
言い捨てるや、迫らずに表へ出ていったようでしたが、ふと伝六をかえりみると、述懐するようにいいました。
「思うに、あのおやじ、少し握り屋らしいな」
伝六にはその突然な述懐がよくわからなかったとみえて、ぼけぼけしながら、いぶかしそうにきき返しました。
「とおっしゃると、だんなは、あのおやじの握り屋らしいところに、なんかこの事件《あな》の糸口があるっておっしゃるんですかい」
「あたりめえよ。ひと口にいや、小欲が深すぎるんだよ。だから、あの軸物をもらったんで、もらうものならなんでもござれとばかり、ほくほくもので有頂天になっているすきを、ちょろりと雪舟に逃げられてしまったんだ」
「じゃ、やっぱり、あの鳶頭の金助とやらが怪しいとおっしゃるんですね」
「決まってらあ。あのおり、ほかにだれもあの座敷へ来たものがねえとすりゃ、雪舟の絵に足がはえてでも逃げ出さねえかぎり、金助よりほかに盗んだやつあねえじゃねえか」
「でも、先代からのお出入りで、評判の正直者だといったじゃござんせんか」
「だから、なおのこと、あのおやじ小欲が深すぎるにちげえねえっていうんだよ。相手が正直者だから安心しきって、もらいものに有頂天となっているすきを、ちょろりと細工されちまったんだ。また、鳶頭のほうからいや、日ごろ正直者として信用されているのをさいわい、そこをつけ込んで裏かいたのさ」
「いかにもね。そうすると、やっぱり、箱書きをするといって、あの箱を持ちけえったことがなんか細工の種ですかね」
「ほほう。じゃ、おまえもやっぱり箱書きが怪しいとにらんだかい」
「だって、考えてみりゃおかしいじゃござんせんか。お祝儀の進物に持ってくるくれえなら、箱書きなんぞまえからちゃんと用意してくるのがあたりめえなんだ
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