坂田の金時|女夫《めおと》の相撲《すもう》、牛若丸はてんぐのあしらい、踊れといえば、そら、あのとおり、――牛若丸はてんぐの踊りとござい」
いいながらむちでたたくまねをすると、いかさま二匹のくまはのっそりのっそりと立ち上がって、いとも器用に鞍馬山《くらまやま》の牛若丸を思わすような剣術の型を使いました。――見物人はむろんのことに、巧みなその踊りを見ると、わッとばかり二匹のくまに拍手の雨を送りました。
しかし、右門ら一行のものにとっては、くまの手踊りよりも片耳のない浪人者が、その一団のうちに交じっているかいないかが第一の問題でしたから、見物人のうしろにかくれて、各自の目を光らしながら、ひとりひとり遊芸人の耳を調べました。
ところが、不思議なことに、どこにもそれらしい人物がいないのです。木戸にいる者、檻のそばについている者、くま使いの者なぞを合わせると、全部で六、七人の遊芸人がいましたが、いずれも一くせありげなつら魂ではあっても、その耳は両方共に完全無欠な者ばかりでしたから、いぶかしく思っていると、そのときまたくま使いの道化者が、見物人の拍手に調子づいたもののごとく、とんきょうに口上を
前へ
次へ
全44ページ中34ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
佐々木 味津三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング