れが縮まったなによりの証拠でござります。いたっててまえはこれが好物でござりますので、もうお番所からさきほどのようにお使いがあった以上は、いずれてまえのお手当もそう遠くないと存じ、今生の思い出に腹いっぱい用いておこうと思いまして、やぶれかぶれにやっていたのでござります」
「猥褻《わいせつ》至極なやつじゃ。女のもとへ逃げ走って、今生の思い出に蛤鍋なぞをたらふく用いるとはなにごとじゃ。――だか、うち見たところ存外のおろか者でもなさそうじゃから、今回だけは兄弟ふたりを拾い育てたという特志に免じ、見のがしておいてつかわそうよ」
「えッ、すりゃ、あの、ほんとうでござりまするか!」
「しかし、このままでは許さぬぞ。もとはといえば、そのほうがあの日鉄山を、所もあろうにかくし女のもとへなぞ使いによこしたから、あたら少年の前途ある命もそまつにせねばならぬようになったのじゃ。だから、あすより手先となって、これなる黙山のかたき討ちに助力をいたせ」
「へえ、もうお目こぼしさえ願えますれば、どのようなことでもいたしますでござります」
「むろん、鉄山からきいて、かたきの人相はどんなやつじゃか、そのほうはよく存じてい
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