」
「いかにもな。それならば、くまにやられたと申した鉄山のことばとも符節が合うているが、しかし、なぜそれほども詳しい下手人の面書きがついているのに、これなる黙山へは厳秘にしておいたのじゃ」
「だんなにも似合わないお尋ねでござりまするな。もしも黙山に詳しいことを知らして、またまたこれが子ども心にかたきを追いかけ、このうえつづいてむごたらしく返り討ちになるようなことがござりましたら、いったいあとはだれがきょうだいたちのかたきを討つのでござります? まるで、血を引いたものは根絶やしになるではござりませぬか」
「いかさまな。女道楽なぞするだけあって、なかなか才はじけたことを申すわ」
いうと、右門はしばらく黙考をつづけていましたが、ことばを改めると強く念を押すようにいいました。
「では、さきほどの見のがしてくれという問題じゃが、けっして二度とは女犯の罪を犯すまいな」
「へえい、もう今夜ぐらい命の縮まった思いをしたことはござりませぬから、今後いっさいこのようなバカなまねはいたしませぬ」
「でも、蛤鍋《はまなべ》かなんかでやにさがっていたあたりは、あんまり命が縮まったとも思えないではないか」
「そ
前へ
次へ
全44ページ中29ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
佐々木 味津三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング