でいるはずでしたから、まさかへまをするようなこともあるまいと思って安心しながら待っていると、だが、案外なことに、帰ってきたのはその伝六ひとりでした。
 しかし、ひとりではあったが、はいりざまに、珍しく今度ばかりはすこぶる景気のよい報告をもたらしました。
「ね、だんな、だんな! 下手人の野郎は、いよいよあの生臭坊主と決まりましたよ」
「だって、肝心の玉を連れてこないことにはしようがねえじゃないか」
「だから、あの坊主がくせえっていうんですよ。ね、あっしがお番所の者だといったら、やにわと逐電しちまいましたぜ」
「えッ、そりゃほんとうかい」
「ほんとうにもうそにも、だからこうやって、あっしひとりでけえったんじゃござんせんか」
「じゃ、なにか事件《あな》のことをにおわしたんだな」
「ところが、そいつがおおちげえなんですよ。どうやら、生臭坊主うたたねをしているようすだったからね、いきなり庫裡《くり》のほうへへえっていって、ちょっとお番所でききたいことがあるから、八丁堀まで来てくんなといったら、野郎むくりと起きざまに青くなって、そのままやにわとずらかってしまったんですよ」
「なるほどな、少しにおい
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