なさいましよ」
「はい、もうどこへでも参ります。お連れしてくんなまし」
すでにかいがいしい旅のしたくをととのえて立ち上がりましたものでしたから、右門はくくしあげられている八つ化け仙次に、いやがらせを一ついいました。
「江戸のならずものは、ちっと手口が違うだろ。どうだ、少しは身にこたえたかい。くやしかろうが、きさまの手いけの花も、ついでに憎い恋がたきのところへみやげにするぜ」
仙次は、いまいましそうに歯ぎしりしたが、むろんもうこれは手遅れなので――その歯ぎしりしたままのやつを、右門は道の途中の自身番へ投げこんでおくと、一路急いだところは八丁堀の組屋敷です。おどろいたのは清吉ですが、自分ではなに一つ密事も打ちあけなかったのに、右門が僅々《きんきん》一日の間で、胸中を読むこと鏡のごとく、おのれのほしいもののことごとくをそこにみやげとしながら携えかえったものでしたから、前後も忘れて薄雪に取りすがりました。右門はそれをここちよげに見守っていましたが、そのときふと思いついたので、まさにふたりの激発せんとしている愛情をせきとめながら、薄雪に尋ねました。
「そうそう、聞こうと思ってつい忘れていたが
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