えをと、右門はただちに仕掛けの壁をあけるべく、巨細《こさい》にその構造を点検いたしました。
 と――その目に映ったものは、床柱の横にぽっちりとみえた節のごとき一個のポチです。こころみにそれなるポチを押してみると、果然土壁は、からくり仕掛けの龕燈《がんどう》返しに、くるりと大きな口をあけました。見れば、いうまでもなくそのうしろには抜け裏がありましたが、それよりも右門の鼻をゆかしく打ったものは、そこのたなの上にある桐《きり》の小箱から発する異香のかおりでしたから、もう以下は説明の要がないくらいで、案の定それなる桐の外箱の中には、南蛮渡りの古金襴《こきんらん》に包まれて、その一品ゆえに若者清吉をして首をくくらし、遊女薄雪をして単身敵の胸中に入らしめた、豊太閤ゆかりの遺品と称する香箱が秘められてありました。だから、遊君薄雪のおどり上がったのは当然なことで――
「まあ! うれしゅうござります! うれしゅうござります!」
 品物をうけとるやいなや、処女のごとき喜びをみせて、かきいだき占めたものでしたから、右門はなすがままにまかせながら促しました。
「では、早いこと清吉どんに、うれしい顔をみせてあげ
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