いそうに、とうとう死ぬ気にもなられたのでござりましょう――思えば、それもこれも、みんなわちきゆえからできたこと、ふびんでふびんでなりませぬ……」
 いうと、美女薄雪はその愛の深さを物語るように、こらえこらえて忍び音に泣きくずれました。
 しかし、右門は聞いた以上もう猶予すべきはずはないので、凛《りん》としながらいいました。
「よしッ、むっつり右門が腕にかけてもひっくくってやろう! すぐさま案内されい!」
「えッ! では、あの、ではあの、わちきたちの命を救ってくださりまするか!」
「聞いちゃほっておかれねえのがわしの性分じゃ。ふざけたまねしやがって、このうえおひざもとを荒らされたんじゃ、江戸一統の名折れではござらぬか。ついでに、その香箱とやらも取り返してしんぜようが、いま仙次の野郎は在宅でござるか」
「今は不在でござりまするが、暮れ六つまえには帰ると申しましたので、おっつけもうそのころでござります」
「さようか。では、張り込んでてやろう。さ、伝六! ひょっとすると、きさまの十手にものをいわさなくちゃならねえかもしれんから、土性骨を入れてついてきなよ」
 かりにも浪花表で八つ化け仙次といわ
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