に及んだ素因が単なる失恋の結果からであるか、それともほかに何かかくされた事件があるか、その二つを剔抉《てっけつ》すればいいのでしたから、もうこうなるとくるわにおける一介のぶこつ者は、断然として天下公知の捕物《とりもの》名人に早変わりいたしまして、その場からただちに例の疾風迅雷的な行動が開始されることとなりました。
「いや、いろいろとよいこと聞いて重畳《ちょうじょう》じゃった。では、せいぜいお客をたいせつに勤め果たして、はようそなたも玉の輿《こし》にお乗りなせえよ」
あっさりいうとすうと立ち上がって、おどろきあきれている揚げ屋の者に、ちゃらりと小判を投げ与えておくと、表へ出るや、伝六にもう鋭い声をかけました。
「さ、例のとおり、駕籠《かご》だ、駕籠だ」
「ようがす、だんなの口からそれが出るようになれば、もうしめこのうさぎだ」
用意のくるわ駕籠にうち乗ると、見返り柳もなんのその、思案橋も勇んで飛んで、一路目ざしたところは、いわずと知れた浅草馬道の二つめ小路です。
3
行き行くほどに空は曇って、まもなくぽつりぽつりとわびしい秋の雨でありました。見れば見捨てておけぬ侠気《き
前へ
次へ
全46ページ中21ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
佐々木 味津三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング