う、このときはこうと、それぞれに対する成案をたてておいて、静かに右門はすずめずしの二階で、今の使いの結果を待ちうけました。
 すると、まもなくのことです。
「おへやはどちら?」
 なまめかしい声に胸のはずみを現わして、そこに姿をみせたものは、だれならぬ問題の女、薄雪その人でありました。薄雪は清吉とは似てもつかぬ右門主従がそこに居合わしたものでしたから、はいりざま少しぎょっとなって狼狽《ろうばい》の色をみせましたが、右門は女が清吉という名をきいて、胸をはずませながらとぶように駆けつけた事実から、身請けの主の絹商人とは同腹でないことをまず知りましたので、それならばと思いながら、源氏名薄雪といったそれなる女が、はたしてどんな人がらのものであるか、その点から観察の歩をすすめてまいりました。
 ところがひと目見ると、これがまたどうして、なかなかたいへんな美人なのです。この種の商売人上がりの美女を形容する場合、おおむね世上では窈窕《ようちょう》という文字を使いますが、しかしそれなる薄雪にかぎってはその名の示すとおり窈窕は不適当で、むしろ玲瓏《れいろう》としてすがすがしい玉をのぞむような美しさでありました。そのすがすがしさがまたくるわの水でみがきあげたすがすがしさなんだから、普通一般の清楚《せいそ》とかすがすがしさといったすがすがしさではなく、艶《えん》を含んでかつ清楚――といったような美しさのうえに、そったばかりの青まゆはほのぼのとして、その富士額の下に白い、むっちりともり上がった乳をおおっている浜|縮緬《ちりめん》の黒色好みは、それゆえにこそいっそう艶なる清楚を引き立てていたものでしたから、同じ遊女のうちでもこんなゆかしい品もあるかと、ややしばらく右門もうち見とれていましたが、かくてはならじと思いつきましたので、こういう女の心を攻めるにはまた攻める方法を知っている右門は、ずばりと、いきなりその急所を突いてやりました。
「まだ存じまいが、そなたの好いている人は、ゆうべ首をくくりなすったぞ」
「ええ! あの、清、清さんは死になましたか!」
 よほどの深い愛情を今も清吉に寄せているとみえて、薄雪は右門のことばを聞くと、もうすでにおろおろとしながら地ことばと里ことばをまぜこぜにして、身も世もあられないような驚愕《きょうがく》を見せたものでしたから、右門はここぞと、隠されているなぞをあ
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