、手荷物なぞに装い、うまいこと船に積み込んだりしてはあいならぬぞ。どうじゃ、まだそれでもわしの慈悲がわからぬか」
「はッ……よくわかってござります。せがれの手荷物のことも、よく胸におちてござります。ありがとうござりました。ありがとうござりました」
 なぞの手荷物のことすらもわかったごとく、権右衛門夫婦がひれふしましたものでしたから、右門はかたわらの敬四郎を顧みると、さわやかな面持ちでいいました。
「これでてまえの八番てがらは、九分どおりかたづいてござる。知恵をお貸し申すといったのでは失礼にござるが、ついでに卍組残りの三人をもめしとられるよう、てまえがちょっと一しばい書いてしんぜますから、それをご貴殿のてがらになされい」
 そして、伝六に立て札を五枚ほど急場にこしらえるよう命じていましたが、ほど経てできあがったのを受け取ると、さらさらと次のごとき文言をその五枚の表に書きつけました。

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「諸兄よ、恒藤権右衛門の居どころ判明したり。
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明六日夜、五つ下がりに道灌山《どうかんやま》裏の森まで参集されよ。――卍」
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