したから、源内の面をあのようにめった切りといたしまして、その卍のいれずみをなによりの証拠のようにみせかけるつもりで、ひとしばい打ってみたのでござります。そうして、上のお目をかすめ、あの日本橋へかかげた立て札によって、いずこにいるか、たしかにまだこの江戸の中にてまえをねらって潜んでいるはずの、残る三人の卍組|刺客《しかく》たちにも、てまえがもう死んだごとくに装って、その凶刃から一生安楽にのがれるつもりでござりましたが、右門のだんなの慧眼《けいがん》に、とうとうこのように正体を見現わされたのでござります。かくのとおり、なにもかも包まずに申し上げましたによって、さいわいに、あれなるてまえのせがれのために、特別のお慈悲あるおさばきをいただければしあわせにござります……」
長い自白の陳述をようやく終わると、子ゆえに一味の者すらも売り、子の愛ゆえに今はまた死体の替え玉すらも思い決し行なった不憫《ふびん》なる父恒藤権右衛門は、そこにじっと両手をつきながら、右門の慈悲を願うようにその顔を見仰ぎました。仰がれて右門もじっとしばらく裁断を考えまよっているかのようでしたが、やがて断固としていいました。
「
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