極度にてまえを恨み、いかにしても裏切り者のてまえに天誅《てんちゅう》を加えねばと、一度長崎表でご用弁となったにかかわらず、仲間のうちの四人が決死隊となって破牢《はろう》を企て、どこでどうかぎつけたものか、てまえが江戸に潜んでいることを聞きつけまして討っ手に向かったと知りましたので、じゅうぶんてまえも気をつけまして、ついひと月ほどまえに、わざわざこんなへんぴな土地へ逃げかくれ、首尾よく身を隠しおおせていたつもりでござりましたが、それが一昨夜でござりました。その四人のうちのひとりのあれなる源内が、長崎表からのお達しでこちらのだんなにご用弁となり、運よくというか、入牢していたうちにだれからか、はからずもてまえがここにいるということをかぎつけ、あのように破牢いたしましてつじうら売りとなり、てまえを討ち取りに参りましてござるが、昔とったきねづかに、てまえのほうが少しばかり力があまっているため、かえってきゃつめを討ち取ってしまったのでござります。そのとき、ふとこれなる妻女が知恵をつけてくれましたので、てまえも急に替え玉のことを思いつき、さいわい右乳下には源内にもてまえにも同じ卍のいれずみがござりま
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