と場合によっちゃ、あっしども一統の名折れにもなるんだからね」
「よし、そう聞いちゃ、相手がちっと気に入らねえが、おれも一口買って出よう!」
「ほんとうですかい!」
「いったん買って出るといったからにゃ、おれもむっつり右門じゃねえか。まさかに唐天竺《からてんじく》までもおっ走ったんじゃあるめえよ」
 証跡を残さずに破牢したという事実も奇怪でしたが、それ以上に江戸八丁堀の一員として、こしゃくなまねをされたことが、ぐっと右門の癇《かん》にこたえたものでしたから、時機はよし、もうこうなるからには御意もよし、さっそうとしてその場に出動いたしました。

     2

 むろん、右門のただちに目ざした場所は伝馬町です。破牢当時の状態と、その罪状履歴をまずもって洗うことが第一のなすべき順序でしたから、さっそくにその夜当直だった牢番の者三人について、証跡収集に取りかかろうといたしました。
 しかし、捜索順序はかく整然として用意されましたが、そうそう問屋はいつも右門にばかり味方するとはかぎっていないので、事実に直面してみると、まず第一の故障がそこに横たわっていました。いうまでもなく、それはあばたの敬四郎
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