「むやみと死にてえやつだな。まだかぎつけたかどうだかもわからねえじゃねえか」
たとえ足はついたにしても、まさかに中仙道へ落ちたことまでは知るまい、と思いましたから、右門はかれらの知らぬ恒藤権右衛門虐殺事件の証跡を持っているだけに、安心していましたが、しかし、それが少し意外でありました。ばったり両方が顔を合わすと、いつにもなくあばたの敬四郎が勝ち誇って、尋ねもしないのにべらべらとやりだしたからです。
「おきのどくだが、今度はお先に失礼するよ。これからもあることだから、参考のためにいっておくがな、さきほどはせっかくあげた非人をこちらへいただいてしまって、ごちそうさまだったよ。おかげで、あいつらの口からほしの野郎が、刀屋でわきざしを買い入れ、本郷方面へ駕籠《かご》でつっ走ったと聞いたからね。いまさっき駆けつけて、すっかり洗いあげたら、途中でつじうら売りに化けやがって、中仙道口を落ちたと足がついたから、このとおりお奉行のお手札をいただいて、おつな道行きとしゃれてるところさ。おおかた、そのあわて方じゃ貴公たちも足を見つけたらしいが、今度はおれがお先に失礼するよ。では、せいぜいあごの無精ひげで
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