にもほどがあるじゃござんせんか! とっくにもうお番所だと思いましたから、あっしゃご不浄の中までも捜したんですぜ。なにをそんなところでやにさがっていらっしゃるんですか!」
 べつにやにさがっていたわけではないのですが、どうせご出仕しても、また一日控え席のすみっこであごのひげをまさぐっていなければなるまいと思いましたものでしたから、てこでも動くまいというように、ふり向きもしないでうずくまっていると、しかし伝六は不意にいいました。
「さ! ご出馬ですよ! ご出馬ですよ!」
 いつも事をおおげさに注進する癖があるので、ふだんならば容易に伝六のことばぐらいでは動きだす右門ではなかったのですが、長いことしけつづきで気を腐らしていたやさきへ、突然出馬だといったものでしたから、ちょっと右門も目を輝かして色めきたちました。
「何か事件《あな》かい」
「事件かいの段じゃねえんですよ。お番所はひっくり返るような騒ぎですぜ」
「ほう。そいつあ豪儀なことになったものだな。三つ目小僧のつじ切りでもあったのかい」
「なんかいえばもうそれだ。いやがらせをおっしゃると、あっしだけでてがらしますぜ」
「大きく出たな。その
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