るほどの蒸しかたでしたが、しかし宮仕えするものの悲しさには、暑い寒いのぜいたくをいっていられなかったものでしたから、しかたなくおそめに起き上がると、ふきげんな顔つきで、ともかくもご番所へ出仕のしたくにとりかかりました。
けれども、したくはしたものの、いかにも出仕がおっくうでありました。暑いのもその一つの原因でありましたが、それよりも事件らしい事件のなかったことが気を腐らしたので、事実また前回の村正騒動が落着以来、かれこれ二十日近くにもなろうというのに、いっこう右門の出馬に値するような目ぼしい事件が持ち上がらなかったものでしたから、ちょうど、よく切れる刀には血を吸わしておかないとだんだんその切れ味がにぶるように、自然と右門の明知も使い場所のないところから内攻していって、そんなふうにお番所へお出仕することまでがおっくうになったのですが、そのためしたくはしたものの、なにかと出渋って、ぼんやりぬれ縁ぎわにたたずみながら、しきりとあごの無精ひげをまさぐっていると、ところへ息せききって鉄砲玉のように駆け込んできたものは、例のおしゃべり屋伝六でありました。
「ちえッ、あきれちまうな、人の気をもます
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