たんだろうよ」
「じゃ、破牢罪人の野郎め、そのすきになんか細工をしやがったんですね」
「穴も掘らず、壁も破らずに破牢したっていや、牢役人どもとぐるでのことか、でなきゃ死骸を運び出すときに細工したとしか、にらみようがねえじゃねえか。聞いてみりゃ、足腰も立たねえほどな半病人だったというから、なおさらこいつは腕ずくの破牢じゃねえよ」
「ちげえねえ! 神さまにしたって、だんなほど目はきかねえや、あそこの係りの非人どもは、日本橋のさらし場にいるはずだから、じゃ、ひとっ走り行ってきますからね。どっちへしょっぴいてまいりましょうね」
「八丁堀へつれてきなよ」
 命じておくと、右門は伝六とたもとを分かって、ただちにお牢屋づきの官医、玄庵《げんあん》先生のお組屋敷へたち向かいました。にらんだごとくに、病囚人が死骸となって、定法どおり非人に下げ渡されたとしたら、必ずやその以前に玄庵先生の手を通じていたはずでしたから、事実の有無を確かめてみようというのがその第一の目的でしたが、それとともに、もう一つの目的は、破牢罪人も病人たまりにいた以上、少なくも両三度ぐらいは玄庵先生のおみたてにあずかっているに相違ないの
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