にんこうじ》とかいうお寺なんだそうだが、ゆんべのうちに裏の墓をあばいて、二つばかり死骸《しがい》を胴切りにしていったものがあったそうだよ」
「ほう、死骸をね。このお盆のさいちゅうに、またうすっ気味のわるいいたずらするやつがあったものだな。なんぞ恨みの筋でもありそうなほしなのかい」
「ところが、どうもただのいたずらだろうというんでね。勤番の者の評定じゃ、べつに取り上げるようなけしきを見せなかったっけが、でも、そのあばかれた墓っていうのが、そろいもそろって四、五日まえに仏となった新墓《にいはか》で、そのうえに二つとも死骸は女だというんでね。いたずらにしても、ちっといろけがあるように思われるんだがね」
「そうよな、女がふたりとも小町娘の姉妹かなんかで、胴切りがまた恋のさか恨みとでもいうのなら、めったな草双紙でも見られない筋だがな」
 ご当人たちはいっこう冗談のように話し合っていましたが、最後の新墓うんぬんといったことばが、ちらり右門の耳へはいったとたんです。ぎろり目を光らしながら、音もなく蝋色鞘《ろいろざや》を腰にさして、静かにはかまのちりを払っていたとみえたが、すっくと立つや、同時に鋭い声
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