ちました。
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さて、その翌朝です。起きるから右門はしきりとなにか人待ち顔でいましたが、と、それを裏書きするように、あわただしく表のかたにあたって、右門のお組屋敷を訪れた人の足音がありました。
「ほしかな」
つぶやいていましたが、伝六の取り次ぎによってそれが越前侯のご用人であることがわかると、右門はおそろしくぶあいそうに命じました。
「石川杉弥のお掛かり合いならば、私宅で面会はなりませぬといっておやりよ」
ぶりぶりしながら用人のたち帰ったのを聞きすますと、右門はなおなんびとか人待ち顔に、しきりと表のほうへ耳を傾けていましたが、それからおよそ一|刻《とき》ほどののち、どうやら女らしい来客の足音を聞きつけると、むくりと起き上がりながら伝六に命じました。
「今度こそ、ほしだほしだ。丁重に案内しなよ」
はたして、伝六に導かれながら、おどおどとしてそこに姿を見せた者は、まだ十六、七の可憐《かれん》きわまりなき美少女でありました。さながら雨にぬれ沈んだ秋海棠《しゅうかいどう》をみるがごとき可憐さで、もの思わしげにうち震えていたものでしたから、座につくや同時に、右門がずばりと先
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