いては、最もこの村正の作刀が忌みきらわれた絶頂だったのです。なぜ、あれほどの名刀がそんなにも嫌忌《けんき》されたか、この話の中心ともなるべきものでございますから、簡単にその理由を説明しておきますが、いくつか説のあるうちで、今に最もよく喧伝《けんでん》されているものは、すなわち、あの村正の妖刀説《ようとうせつ》です。その説をなすものの言によると、本来刀を打つ要諦《ようてい》は、身を守るために鍛えるのが主であって、人を切ろうという鍛法は従であるのに、どうしたことか初代の千子院村正《せんじゅいんむらまさ》が切る一方の刀ばかりを打つので、とうとう師の正宗が涙を奮ってこれを破門したところ、今度は村正がそれを根にもって、では師匠正宗すらもしのぐほどな刀を鋳ようと、ひたすら切る一方の刀を打ったために、いつしか妖気と殺気がその作刀に乗りうつって、そのためこれを腰にする者はつい血を見たくなったり、人を切りたくなったりするというのが、いわゆるその妖刀説ですが、しかし、これは村正の刀があまりによく切れすぎるのと、その刀相に一抹《いちまつ》の妖気が見られるところから、いつだれがこしらえたともなくこしらえた伝説
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