達者すぎる河童ぶりに、もはや疑いもなく下手人とにらみがついたものでしたから、あんなふうに追っつけ鈴ガ森か小塚ッ原へ送られるだろうなぞと気味のわるいことをいったので、そして宵の五つから四つまでに毎夜のごとき小娘お静の悲鳴があったというそのいきさつは、ほかでもなく、身分がらをはばかったあれなる老職が、そのおりにこっそりと忍んでくるので、用もない用を言いつけて、夜中表へ使いに追いだすための打擲《ちょうちゃく》折檻《せっかん》なのでありました。だから、もうこうなれば、いかに不貞の妻女といえどもただ恐れ入るよりほかはないので、今にして八丁堀にわがむっつり右門のあったことを知ったもののごとくに、青ざめていったことでした。
「だんながいられるとは知らずに、とんだだいそれたことをいたしました……」
 と、右門の鋭い声が間もおかないで、がんと一つ見舞いました。
「バカ者! おそいや!」
 まったく、これはどう考えたっておそすぎますが、そこへちょうど、町方見まわりの者たちが変をきいて駆けつけたものでしたから、右門はあとの始末を託しておくと、例のおとし差しで足を早めたのは、わが八丁堀の住まいです。いうまでも
前へ 次へ
全48ページ中44ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
佐々木 味津三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング