つをふところへ敏捷《びんしょう》にねじこませておくと、右門はさっさと駕籠《かご》を八丁堀へ帰させて、家へ上がるやお由の目をそばだてたのもかまわずに、さっとばかり胸をくつろげながら、わだかまりなくいったものでした。
「おう、暑い! 見る者はあっしとこの伝六ばかりだから、ご遠慮なくお由さんも薄着におなんなせえな」
おなんなせえなといったって、なにをいうにも若い男をふたりも目の前にしてのことなんだから、冗談にもそんなだいそれた薄着なんぞになれるものではないのだが、蒸し返すような炎熱はがまんにもしんぼうができなかったとみえて、それにその筋のおだんな衆がちゃんとそばについていて、いいというお許しが出たものだから、ついお由も心がゆるんだものか、水色麻の長じゅばんをなまめかしくちらちらさせると、くつろげるともなく胸のあたりを少しばかりくつろげました。――むろん、雪のはだえは瑠璃色《るりいろ》にしっとり湿気を含んで、二九まさるはたちばかりの今ぞ色濃き春のこころは、それゆえにひとしおあだめかしい髪のくし巻き姿とともにいちだんのふぜいを添えて、魂までもあの世の遠くへ抜け出ていきそうななまめかしさでしたが
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