がるね」
 だから、むろん伝六は御用にすることとばっかり思い込んで、勢い込みながら身を浮かそうとすると、しかるに右門は、意外な行動を突如としてまた取り出したのです。とっさに目顔で伝六を制しておいて、にやにや笑いながら女のあとを追っていったようでしたが、人込みのとだえた観音裏までつけていくと、ぽんと軽く女の背中をたたきながら、さわやかにいったもので――。
「ちょいと、お由さん! 妙なところでお目にかかったもんですな」
「えッ!」
 不意に自分の名を呼んで、しかもそこにりゅうとしたいい男の若い侍がなれなれしげに立っていたものでしたから、くし巻きお由の目をぱちくりとさせたのはいうまでもないことでしたが、右門はそのおどろきを見流しながら、莞爾《かんじ》とばかりにうち笑《え》むと、いっそうのさわやかさでいったものでした。
「おうわさじゃ聞いていましたが、あんなに器用な腕まえたあ思いませんでしたよ」
「えッ……まあ、突然――突然なんのことでございますかね」
「いいえ、なにね、今そこの日|傘《がさ》の中にちょいとこかし込んだしろもののことですがね」
「えッ!」
 ぎくりとなって、やや青ざめながらおも
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