の着付けで、素足に日傘《ひがさ》をもったくし巻きのすばらしいあだ者が、向こうへ行くじゃねえか」
「な、な、なるほどね。どうやら堅気の女じゃねえ様子だが、あいつに目を放さなかったら、暑気当たりの薬にでもなるんですかい」
「よくも口のへらないやつだな。ひょうきん口をたたいている場合じゃねえんだよ。ずいぶん暑い思いをさせやがったが、あのあだ者が、今うわさに高いくし巻きお由にちげえねえんだ」
「えッ、くし巻きお由……? くし巻きお由っていや、きんのうもご番所でやつのうわさが出ましたっけが、この節浅草を荒らしまわる女すりじゃござんせんかい」
「だろうとにらんだればこそ、目を放さずにいろといってるんだ」
「でも、深川のまま母は、あいつじゃござんせんぜ」
「うるせえや、見てろといったら見ていろい!」
 はげしくしかりつけましたものでしたから、無我夢中ながら伝六も必死に目を放さないでいると、くし巻きお由と目ききされたそれなる疑問のあだ者は、どうしたことか、手にちゃんと日傘をもっているくせに、それをすぼめたままで、ごった返している人込みの間を右に左に縫いながら、仲みせを奥へ小急ぎに行ったようでしたが、と
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