はいっこう何も変った点は見せなかったそうでしたのに、売卜者《ばいぼくしゃ》のいったかっきり丑満どきがやって来ると、実もって奇怪なことには、急に気違いのごとくに狂いだし、なにやら声高にわめきながら、やにわに往来へ駆けだしたんだそうで、のみならず、そのままやみの中をいっさんに永代橋に向かって駆けつけていくと、あれよあれよと追いすがった妻女の手をふりのけながら、いきなり身をおどらして、橋の欄干ぎわからざんぶとばかり大川に身を投じ、それなりどこへ流されてしまったか、死体もわからない不審な自殺を遂げてしまったということでありました。で、小娘の訴え嘆願していうのには、いかにもその死に方がいぶかしすぎるから、右門の知恵と力によって、その不審な父親の死のなぞを解いてほしいとこういうのでした。
 事実としたら、なるほどその死に方は、少しばかり奇怪です。いかに浪人者が昔からの迷信家であったにしても、このご時世にそんな死に方は、めったにはあるべきことがらではないんですから、即座に小娘の哀願を引きうけて、よしとばかりに、右門一流の疾風迅雷的な行動が、その場からすぐと開始されそうに思われましたが、しかるに、かれ
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