でがしょうが、あっしゃぺったり生き血を首筋へやられたときゃ、五年ばかり命がちぢまりましたぜ」
「じゃ、きげん直しに乃武江《のぶえ》でも招いて、いっしょにところてんでも食べるかな」
すると、伝六が急にくつくつ笑いながらいいました。
「だんなも悪党をつかまえるこたあ天下一品だが、あっしのような善人には眼力が届かんとみえらあ。あの日四谷からの帰りがおそすぎたでしょう。なんのために、あれっぽちのねた[#「ねた」に傍点]洗いがあんなにおそすぎたかご存じですかい。ちゃんともうあのとき妹のやつを家へひっぱっていって、早いところ五、六本すすったんですよ。どうです。くやしかありませんか」
憎めないやつで、かわいいことをとうとう白状してしまいましたものでしたから、右門は目を細めながら、この愛すべくむじゃきな部下をしみじみと愛撫《あいぶ》するようにながめていましたが、いつにもなく右門に似合わない述懐をもらしました。
「きさまがべっぴんで、女の子だったら、ひと苦労してみるがな」
底本:「右門捕物帖(一)」春陽文庫、春陽堂書店
1982(昭和57)年9月15日新装第1刷発行
1996(平成
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