屋の主人がすっかりみけんに青筋を立ててしまったのです。それが嵩《こう》じて、利益の分配のことにもけんかの花が咲き、その結果があの笛の中の書き置きにあったようなしばいがかりのつらあて毒死になったものでしたが、運よくもまたそれをわれわれの崇拝おかないむっつり右門に発見されましたのでしたから、かれの明知が瞬間にさえ渡って、遺書の中に見えた、いまにぼちぼちと世間に知れるだろうという一句から、早くも伝六が奉行所から持ってかえった報告中のにせ金事件に推定を下し、かくのごとくに奇想天外疾風迅雷的の、壮快きわまりなき大|捕物《とりもの》となるにいたったのでありました。
 だから、右門は吟味をとげて、女もろとも一味の者を獄門送りに処決してしまうと、いとも心もちよさそうにいったことでした。
「これで糸屋の若主人も迷わず成仏するだろうよ。遺言どおりに、塩首が見られるんだからな」
 しかし、伝六は不平そうにいったものです。
「ところが、あっしゃ成仏しませんよ。もうこんりんざい、だんななんぞに幽霊屋敷や化け物話を聞かせるこっちゃねえ。だんなの知恵じゃ、すぐとそいつが一味の巣窟《そうくつ》にも穴倉にも見当がつくん
前へ 次へ
全47ページ中45ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
佐々木 味津三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング