るところへ、ショッワッ、ショッワッ、ショッワッ――という声、不思議なことに、江戸の三社祭りのもみ声となると、必ずまたきまってワッショッワッショッとは聞こえないで、ショッワッ、ショッワッとさかさまに聞こえるから奇妙です。だから、もうこうなればお国なまりの二本差しも珍しいので、先になって、足を踏まれたぐらいは問題でないので。かくするうちにも、山王権現のおみこしは、総江戸八十八カ町の山車《だし》引き物、屋台を従えながら、しずしずと、いや初かつおのごとく威勢よく竹橋ご門外に向かって、お矢倉さきにさしかかってまいりました。
 将軍家光公はもちろんもう先刻からのおなりで、五枚重ね朱どんすのおしとねに、一匁いくらという高直《こうじき》のお身おからだをのせながら、右に御台《みだい》、左に簾中《れんちゅう》、下々ならばご本妻におめかけですが、それらを両手に花のごとくお控えさせにあいなり、うしろには老女、お局《つぼね》、お腰元たちの一統を従えさせられて、ことのほかの上きげんです。
 すると、これらの山車引き物の中で、四谷伝馬町の牛若と弁慶がちょうど将軍家ご座所前にさしかかったときでありました。将軍家のご上
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