四万人、それらが今と違ってみんな頭にちょんまげがあるんですから、同じまげでも国技館の三階から幕内|相撲《ずもう》の土俵入りを見おろすのとは少しばかりわけが違いますが、だから、なかにはまたおのぼりさんのいなか侍も交じっているので、足を踏んだとか踏まないとか、お国なまりをまる出しでたいへんな騒ぎです。
「うぬッ、きさまわスのあスを踏んだなッ、武スを武スとも思わない素町人、その分にはおかんぞッ」
侍のほうではたといおのぼりさんでもとにかく二本差しなんだから、いつものときと同じようにおどし文句が通用すると心得ているのでしょう。しかし、きょうの江戸っ子は同じ江戸っ子でも少しばかり品が違っているので、その啖呵《たんか》がまた聞いていても溜飲《りゅういん》の下がるくらいなのです。
「なにいやがるんでえ。このでこぼこめがッ、おひざもとの産土《うぶすな》さまが年に一度のお祭りをするっていうんじゃねえか。村の鎮守さまたあわけが違うぞ。足を踏まれるぐれえのこたあ、あたりめえだ!」
実際またそうなんで、ことに山王さまは将軍家お声がかりのお祭りなんだから、氏子どもの気の強いのはあたりまえなことですが、いって
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