立ち止まりながら、しきりとやみをすかして、あのとき通りすがりの職人から聞いた大いちょうのありかを捜していましたが、やがてその方向を見定めると、容赦もなくよもぎっ原をどんどんそのほうへやって参りましたものでしたから、ようやく気がついたとみえて、伝六がぶるぶるッと身ぶるいしながら、そでを引くように呼びとめました。
「ね、だんな、待っておくんなさいよ。待っておくんなさいよ。人をからかうにもほどがあるじゃごわせんか。どうやら、行く先ゃさっきの職人からきいた化け物屋敷のように思われますが、あっしゃこう見えても善人なんです。生得お寺の太鼓と化け物ばかりゃきれえなんだから、このお供ばっかりはごめんですよ、ごめんですよ」
しかし、右門は依然黙々たるものでありました。本田の下屋敷を裏へ抜けて、だらだらと小二町ばかり南のがけのほうへやって行くと、なるほど、不思議なところに一軒変な家があるのです。こんな原っぱのまんなかにどこの酔狂者が建てたんだろうと思われるような一軒家なんで、まず間取りならばせいぜい三間か四間くらい、けれども存外その建てつけが古そうなんだから、隠居所にか寮にでも建てたものらしいですが、あ
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