立ち止まりながら、しきりとやみをすかして、あのとき通りすがりの職人から聞いた大いちょうのありかを捜していましたが、やがてその方向を見定めると、容赦もなくよもぎっ原をどんどんそのほうへやって参りましたものでしたから、ようやく気がついたとみえて、伝六がぶるぶるッと身ぶるいしながら、そでを引くように呼びとめました。
「ね、だんな、待っておくんなさいよ。待っておくんなさいよ。人をからかうにもほどがあるじゃごわせんか。どうやら、行く先ゃさっきの職人からきいた化け物屋敷のように思われますが、あっしゃこう見えても善人なんです。生得お寺の太鼓と化け物ばかりゃきれえなんだから、このお供ばっかりはごめんですよ、ごめんですよ」
 しかし、右門は依然黙々たるものでありました。本田の下屋敷を裏へ抜けて、だらだらと小二町ばかり南のがけのほうへやって行くと、なるほど、不思議なところに一軒変な家があるのです。こんな原っぱのまんなかにどこの酔狂者が建てたんだろうと思われるような一軒家なんで、まず間取りならばせいぜい三間か四間くらい、けれども存外その建てつけが古そうなんだから、隠居所にか寮にでも建てたものらしいですが、あのとき職人がいったように、今はただの貸し家になっているとみえて、門のあたり、かきねのあたり、草ぼうぼうとして荒れるがままのぶきみな一軒家でありました。これではどう見ても化け物屋敷といううわさのたつのは当然なんで、しかも門前ににょっきりと立っている大いちょうなるものが、はなはだまたいけないかっこうをしているのです。枝葉は半分葉をつけ、半分は枯れ木のままで、それがぬっと深夜の空にそびえ立っているあんばいは、それだけでも化けいちょうといいたいくらいな趣でした。
 右門は立ち止まってまずその大いちょうを見あげ見おろしていましたが、その枝葉の半分枯れかかっているのを発見すると、つぶやくようにいいました。
「ははあ、どこか根もとにうつろがあるな」
 回ってみると、案の定、向こう側の草むらに面したところに大うつろがあったんで、一刀をぬきながら中をかきまわしてみると、穴はずっと地中深くあいているらしいのです。それがわかると、右門はにやりと笑いました。同時に、ふるえている伝六にいったもので――、
「なるべく大きな音をさして家へはいれよ」
 だから、伝六がいっそう震えながらそでを引きました。
「いやんなっ
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